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「──別に、書いてしまっても構わんのだろう?」
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 その時彼女はコンビニにいた。




 不実の楽園を乗り越え、現世へと舞い戻ったバゼット・フラガ・マクレミッツが失われた左腕の代わりと成る義手の手配やら何やらで冬木市に滞在する事数週間。
 ある程度の目処が立った彼女は世話になった魔術師達に挨拶もそこそこに、世界を見て回る事にした。

 虚ろな揺り籠の中で彼がくれた一つの想い。世界の広さを求めながら、けれど狭い世界に閉じ篭り続けた女の殻を破ってくれた誰か。
 これまで見られなかったものを見る為に、求めていた何かを探す為に、彼女はバック片手に広大な世界の中へと飛び込んだ。

 封印指定の執行者として世界中を飛び回っていたとはいえ、単独で、しかも目的のない旅というのは初めてだ。
 なので彼女は、冬木を出て来る時に立ち寄った教会に詰める陰険シスターの助言に従い、まずは日本を巡ってみる事にした。

 この国はかつて、彼女が淡い想いを寄せていた男の国であり、今の彼女を作り上げてくれた国でもある。わざわざ最初から異国の異国へと赴く必要もない。まずは足場固めだとばかりに彼女は日本のとある都市に足を伸ばした。

 なのだが。

「いらっしゃいませー」

 特に目的もなく深夜の散策に勤しんでいたバゼットは、身体が発した空腹を告げる命令に従いもっとも近場にあったコンビニエンスストアに入り、店側が客により多くの品物を買わせる為に考案したルートをまるで無視し、店員の前を華麗に横切ってオニギリを三つばかりと紙パックのお茶を掴んで滑らかな動きでレジに差し出したところで──固まった。

「100円が一点ー、120円が一点ー、……」

 軽やかに謳い上げながら精算を進めていくレジ店員。その女性のありえざる風貌──否、気配にバゼットは瞠目した。

 ……何故、死徒がコンビニで店員を!?

 茶掛かった髪を二房に分けて揺らす見た目女子高校生くらいの女の子。けれどその気配は執行者として戦場に赴いた時、何度か出くわした事のある死徒のそれに他ならない。
 微かに香る血の匂い。快楽殺人者が匂わせるそれと比べればそれこそ気付かないほどの極微量なものだったが、バゼットが血の匂いを嗅ぎ間違える事などありえない。

「ありがとうございますー、お会計……」

 値段をつげる店員と視線を交わす。赤い赤い瞳の色は、禍々しい者だけが持つ事を許される血色の硝子。何処までも赤く、何処までも透き通る硝子細工。

 携帯している財布から小銭を出し、支払う。何故死徒がこんな場所で人の輪の中に紛れ込んでいるのかは分からない。とりあえず理解できるのは目の前の女はバゼットの素性に一切気が付いている気配はなく──また敵意の欠片さえもなかった。

 血を主食とする死徒がこんな細々とした路銀を得る事に一体何の価値を見出すのかとお釣りを受け取る間に思考を巡らせて見ても、やはり答えなどでる筈もない。
 自分自身さえよく分からないバゼットが、他人──しかも死徒の頭の中身など理解できるはずもなかった。

「? あの、えと、何か?」

 釣り銭を貰ってなお微動だにせず、半ば睨み付けるくらいの勢いで店員を見据えていたバゼットに、訝しんだその女の子は何処となく怯えた風にそう口を開いた。

「いえ、失礼しました」

 バゼットはそれだけ告げてレジの前を去る。無論、後ろから強襲されようとすぐさま対応できるだけの心の準備をしたままに。
 店を一歩でれば冷たい夜気が頬を撫でる。後ろから「ありがとうございましたー」と少しだけ間延びした声が聞こえてけれど、追ってくる気配は微塵もなかった。

 駐車場でごそごそとつい今し方購入した夜食を漁る振りをしながらそれとなく店内を窺ってみるも、陳列棚の整理やら床のモップ掛けやらと真面目に働いているようにしか見えない。

 ……一体、どういう事だ?

 脳裏を掠める疑問に答えを出してくれる者はいない。ただバゼットが選択すべき道は二つ。この場であの女の子を殺すか、無視するか。

「…………」

 その答えは単純だった。目の前で人の生き血を啜っている現場を目撃するのならまだしも、勤労に勤しむ者をワケもなく殺す事はなんとなくだが嫌だった。
 別に任務を受けているわけでもなければ、教会代行者のように教義に従い主の教えに反する者を駆逐する──などと思えるほど狂ってもいない。

 だからこの場は静観が上等。

 もう少しばかりこの町には滞在するつもりであったし、答えを出すのはそれからでも遅くはない。その間にあの女の子が人を襲えば、己の倫理観により駆逐するだけの話。

「……全く。私はただ世界を見て回りたかっただけなのに。これでは前途多難だ」

 誰にも聞こえない溜め息をついて、バゼットはゆっくりと帰路に着く。

 ──この時彼女はまだ知らなかった。この町が置かれている現状を。それこそ、彼の地で体験した聖杯戦争に匹敵するほどの魔窟と化している──三咲町の真実を。

 彼女はまだ知らず──巻き込まれるとさえ思ってもいなかった。





















※長編がここにきて難航しくさりやがりましたのでノリで書いた。
特に反省はしていない。そして多分続かない。
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無題
続かないだと…
バカな…
NONAME 2008/12/24(Wed)15:45: 編集
無題
え・・・?
続かないんですか・・・?
通りすがり 2012/03/02(Fri)11:55: 編集
無題
あれ?続かない
NONAME 2012/05/18(Fri)00:04: 編集
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