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「──別に、書いてしまっても構わんのだろう?」
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 聖杯戦争を終え、見識を広めるという名目で数ヶ月日本に滞在していたウェイバー・ベルベットは、ほどなくして古巣である時計塔へと帰還した。



 行きの時は簡単な着替えや魔術器具、パスポートなど必要最低限のモノしか持って行かなかったウェイバーだったが、帰りは思いのほか大荷物だった。

「ったく……アイツがこんなもの買うのが悪いんだ」

 アルバイトをして稼いだ金で購入した真新しいバッグの中には彼の王であるイスカンダルが購入したゲーム機が入っている。

 だけに留まらず、何時の間にかゲームの世界にどっぷりと入り込んでしまったウェイバーは稼いだ金の約半分くらいはゲーム資金として買い漁り、放っておけば一日中テレビ画面に齧り付く事もあるほどにディープに嵌ってしまった若輩魔術師は、これではいけないと思い至り、ゲームの溢れる日本を脱し、自らの本来の職務である魔術師としての研究を再会する為に時計塔へと急ぎ舞い戻った。

 あのままあの国にいればそれこそ堕落してしまう危険性があった。ゲームとはかくも恐ろしいものであったかと飛行機の中で感嘆の溜め息をついたウェイバーは、それでもイギリスまで持ち帰る程に飲み込まれていた。立派なゲーマーである。

「……で。まあ出迎えなんてないよな。言ってないし。ボクレベルの魔術師じゃあ当たり前か」

 そんな独り言を呟きつつ、自らの住処が勝手に解約されていないか確認し、ちゃんと残っていた事に安堵し、手荷物を適当に放り込み、学院の窓口に近く復帰する旨を伝えた。
 その時別に失踪の理由が聞かれなかった辺り、ウェイバーの学院での評価の低さが窺い知れるというものだった。

「フン、構うものか。これから頑張ればいいんだから」

 日本で出会い、別れた偉大なる王。その背中に見た輝かしい光を共に担うと誓った臣下は、彼に恥じない己となる為に、新たなる一歩を踏み出した。



 そんな彼を待ち受けていたのは、数少ない学友からの手厚い歓迎でもなければ同じ選科連中の憐憫の眼差しでもなければ、ただひたすら慌しくあちらこちらに走り回る学徒の姿だった。

 適当な人間を捕まえて何があったのかと問い質してみれば、彼のロード・エルメロイが日本の大儀式に臨み半ばで敗れたという噂で持ちきりであるらしかった。

 そして輝かしい将来を約束されていた男は、まさかそんなところで自らの人生が潰えるとは夢にも思っていなかったらしく、彼が遺した魔術の秘奥は彼だけしか理解できない手法で括られたまま放置され、散逸の危機にあり、最たる後継者を失ったエルメロイ家は権力闘争の場から弾き出され没落に瀕し、その後釜を巡って数多の魔術師達が水面下の闘争を繰り広げているらしかった。

「……なんか、やばい事になってるな」

 ウェイバーがのんびりと見識を広めるという名の下にゲームに没頭している間に、時計塔は殺伐とした雰囲気に閉ざされていた。常にどこかドロドロとした印象のあった学院内が、より一層張り詰めていて息苦しい。

 そしてウェイバーは、そんな自分とは全く関係のないところで繰り広げられる闘争に興味などなく、ただ自分の研究に終始するだけだ──と憚れるほど無関係な立場でもなかった。

 ロード・エルメロイが敗れた一端を、ウェイバーは担っているともいえなくもないからだ。そもそもの話、ウェイバーがライダーを召喚できたのはロード・エルメロイが聖杯戦争用に取り寄せた聖遺物を掠め取った事に起因する。

 本来ならライダーはロード・エルメロイのサーヴァントととして召喚される筈であり、ウェイバーに奪われた苦肉の策として彼はランサーを召喚したのだろうから。

 ウェイバーが最後まで生き残った事を思えば、ロード・エルメロイがライダーを召喚していればそれこそ成敗を手にした可能性も低くはないだろう。あの男はロードを指してつまらんだの何だの嘯いていたが、実力や魔力量を鑑みればウェイバーの比ではないのだから。

 そういう意味では、ウェイバーにも少なからず責任がある。そして仮にもあの男の下で学んだ者として、同じ戦争に赴いた者として、知らぬ顔で自らの研究に没頭出来るほど、ウェイバー・ベルベットは魔術師として冷徹ではなかった。

 だから彼がまず最初に取った行動は、エルメロイ講師が務めていた降霊科に顔を出し、何か出来ることはないかと聞くだけだった。
 無論ウェイバーのような小物に手伝えるようなものがあるとは思ってなく、建前としてそう聞いただけの話だ。これでおまえなんかできることはない、失せろ。とでも言われればそれはそれで良かった。義理は果たそうとしたし、その結果が伴わなくとも向こうから切り捨てるのなら仕方がない事であったのだから。

 だがウェイバーは今の時計塔、エルメロイ家の現状を軽んじていた。彼の家はそれこそ猫の手も借りたいほどに忙しなく、元弟子であると名乗ったウェイバーはすぐさまエルメロイの研究室へと半ば強制的に連行され、目の前に突如として現れた膨大なまでの書類を棚に収める書架の整理を押し付けられた。

「……これを、全部一人で?」

 ウェイバーを引き摺ってきた女性は頷き、じゃ! よろしく! と言わんばかりの爽やかな笑顔……とはほど遠い切迫した顔つきでさっさと整理しとけ、と睨みつけて去っていった。

「…………無理だろ、コレ」

 目の前に聳えたつ巨大な書架。それこそ図書館丸ごと一館分相当にも及ぶ膨大な書類をどうして一人で整理など出来ようか。それもこれは全てロード・エルメロイが残した研究成果であり、彼が彼なりに配置した彼だけが分かる構成で収められている。

 ウェイバーに押し付けられた仕事の内容は、全ての書類を検閲し、誰が見ても分かるように纏め上げる事。一人の人間に押し付けるような仕事じゃないだろう、と呟いてみても、誰も聞いてはくれない。

 現在エルメロイの息のかかった連中はその権威を守り通す事に必死であり、ロード・エルメロイの遺産の整理など二の次の状況だ。
 本来、魔術師が次代へと遺産を相続する時、何かしらの遺言なり研究を一纏めにした書物などを残すものだが、あの天才講師は自分が死ぬなどとはまるで思ってもいなかったらしく、それらしい遺言も研究成果の纏めた書物さえも見つからなかったらしい。

 後に残されたのは手のつけようもないバラバラの紙切れの山。その全てを解体解読し一冊の本に纏め上げればエルメロイ家が持ち直す奇跡のような切り札になりえるのだが、聳えたつ書架の数を見れば億劫になりすぎる。

 こんなものを纏め上げるだけで一体どれだけの時間がかかるかも分からない。そんな間に合うかどうかも分からないものい頼るよりも、目の前にあるもので現在の権威を保つ事を選択したエルメロイ家の人間と子飼いの優秀な魔術師連中は、今は亡き天才講師の成果に見向きもせず、不出来な弟子に全てを押し付けられた形と成った。

「何の因果かってはなしだけど。まあ、やるか」

 責任の一端を担っている事に何処となく後ろめたい気持ちもあったウェイバーは、とりあえず書架に手を伸ばした。

 こんな誰がどうみても一人では年単位の時間が掛かりそうな書類整理を、ウェイバーは僅か数ヶ月の内にこなし、こんな雑務がウェイバーのこれよりの人生を一変させるとはこの時本人はもちろん世の誰もが知りえなかった。







※これは微妙。まあ書く練習なので良しとする。
 
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無題
ウェイバーが最後まで生き残った事を思えば、ロード・エルメロイがライダーを召喚していればそれこそ成敗を手にした可能性も低くはないだろう。あの男はロードを指してつまらんだの何だの嘯いていたが、実力や魔力量を鑑みればウェイバーの比ではないのだから。
成敗→聖杯?
NONAME 2008/11/09(Sun)01:32: 編集
無題
これ続かないのか?残念
2012/01/22(Sun)07:48: 編集
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